【おさらい】入居一時金が返ってくる場合を確認
入居一時金とは、「ある程度の期間」の月額利用料を前もって支払う「前払い金」のこと。
この「ある程度の期間」よりも早く退去することになった場合は、入居一時金が返ってくることになります。
償却(初期償却)とは?
入居一時金は、入居している一定の期間に毎年分割して家賃等で使われます。そのように分割して使われることを「償却(しょうきゃく)」といいます。
また、多くの老人ホームでは、入居時に入居一時金の約10~30%がすぐに使われることになり、それを「初期償却」と呼びます(自治体によっては初期償却がないところもあります)。
その後、「これだけの期間で償却する」と設定された期間の中で、残りの入居一時金が使われていくことになります。
償却期間とは?
償却期間とは、入居一時金を入居期間に応じて返還するために設定されている想定入居期間のこと。
仮に1年しか住まなかったら○円はお返しします、20年以上住んだら入居一時金はお返しできませんよ、ということをあらかじめ取り決めておきます。
償却期間は老人ホームによって異なるので、入居契約をする前に必ず確認しましょう。
入居一時金のクーリングオフ(短期解約特例)とは?
ちなみに、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅との契約もクーリングオフの対象となります。
入居後90日以内に契約解除した方には入居一時金の全額が返還されます。
※介護保険施設である特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養病床)、介護医療院には入居一時金はありません。
入居一時金の償却について3つのチェックポイント
先に説明した通り、入居一時金は、利用者があらかじめ老人ホームに対してお金を預けておく「前払い金」の性質を持ちます。
もし全額償却される前に退去することになったら、未償却分を返還してもらえますが、償却期間や初期償却率は施設によって異なってくるため注意が必要です。
続いては、入居一時金の「償却」に関する3つのチェックポイントを見ていきましょう。
1. 償却期間の長さ
入居一時金の償却期間は、介護付き有料老人ホームは短めで、住宅型・健康型有料老人ホームは長めとなるのが通例です。
平均年数でいうと、「介護付き」では5年前後、「住宅型」や「健康型」では15年前後に設定されているケースが多く見受けられます。とはいえ、実際の償却期間の設定は各施設が自由に決定できるので、事前に必ずチェックしておきましょう。
2. 初期償却される金額
老人ホームの中には、「初期償却」という形で入居時に入居一時金を一気に償却するところもあります。この場合、たとえ入居後すぐに退去したとしても、初期償却分は返還されません。
初期償却は事実上、施設側の利益確保分の金額であるといえます。
初期償却として差し引かれる割合には統一された基準はありません。施設によって0~30%とバラツキがあるので、事前に確認しておきましょう。
3. 償却方法について
入居一時金の償却方法には、「定額償却」と「定率償却」の2種類があります。
定額償却は月割りで一定の金額を償却していく方法で、定率償却は所定の期限ごとに同率の金額を償却していく方法です。
年間の償却額でいうと定額償却の方が少なく、早めに退去する場合より多くの金額が返還される傾向にあります。
入居一時金にまつわるトラブル
老人ホームの退去時に目立つのが、入居一時金の返還金トラブル。
償却期間内の返還金の仕組みは老人ホームによって定められていますが、契約段階での説明が不十分な場合、退去時にトラブルが発生してしまうことも。
クーリングオフの場合は全額返還とされていても、返還金のルールは老人ホームによって異なるので注意が必要です。
トラブルを避けるために契約段階で丁寧な説明をしてもらい、腑に落ちない場合はその場で必ず確認しておきましょう。
「入居の権利金」や「礼金」を前払いするように求められる
入居一時金は前払い金として施設側が受け取っても良いとされるお金ですが、中には受け取ってはいけないと規定されているお金もあります。
例えば、以前の老人ホームでは「入居の権利金」という前払い金を要求する施設も多くあったのですが、2012年の老人福祉法改正時に権利金の受領は禁止されました。
現在は「礼金」や「保証金」、「協力金」などの名目で、入居時に老人ホーム側がお金を受け取ることも禁止されています。
法改正で全ての有料老人ホームが「保全措置の対象」に
施設が経営悪化などで倒産してしまった場合、未償却分が残っていても返還されないという問題がありました。
こうした事態を避けるため、2006年に老人福祉法が改正され、同年4月以降に設立した有料老人ホームは、入居一時金に対する必要な保全措置を取ることが義務付けられました。
その後2017年の改正では、2006年以前に開設した施設についても保全措置の義務化が決定。
3年間の経過措置が設けられていましたが、2021年4月にその期間が終了し、すべての有料老人ホームが前払い金の保全措置の対象となりました。
入居一時金の相続税・贈与税に関するトラブル
入居者が亡くなった場合の入居一時金の返還金
有料老人ホームに入居している方が未償却分の入居一時金を残して亡くなった場合、返還される金額は相続人が受け取ります。
その際、相続人には受け取り額に応じて相続税が発生するので注意が必要です。ただし、評価方法は簡単で、返還された金額を相続財産として計上するだけで問題ありません。
なお、相続人以外の人が受け取る場合は、贈与税がかかる場合があります。
高級老人ホームだと入居一時金の額が大きく、返還金の額が数千万円に上るケースも少なくありません。その場合、相続税や贈与税の額も大きくなってくるので注意しましょう。
①贈与税がかかったケース
入居一時金については、入居者とお金の負担者が異なる場合にも、贈与税の発生が問題になってきます。例えば、妻が老人ホームに入居する際の入居一時金を夫(あるいは子など)が負担した場合、妻への贈与の有無が問われるのです。
鍵となるのは、入居一時金が贈与税のかからない生活費とみなされるか否かという点にあります。
例えば、国税不服審判所の2011年6月10日の裁決では、入居一時金は日常生活に必要な費用であるとは認められず、生活費には該当しないため、贈与税の非課税財産にはあたらないとされました。
つまり、入居一時金の負担者から入居者への贈与が発生しているとみなされ、贈与税の支払いが裁定されたのです。
なお、このケースは入居一時金が1億円以上の超高級老人ホームというやや特殊な状況でした。
②贈与税がかからなかったケース
一方、入居一時金の負担者と入居者が別々でも贈与税がかからなかったケースもあります。
例えば、国税不服審判所の2010年11月19日の裁決では、自宅での介護が困難になって老人ホームに入居することになり、その際にどうしても入居一時金を支払う必要が生じたことが考慮され、贈与税はかからないとされました。
入居一時金の負担者は自宅で介護を行っていた介護者でもあり、入居者を老人ホームに入れたことは、自宅での介護を伴う生活費の負担に代わるものとして相当と認められたのです。
このケースでは、入居一時金が課税対象外である生活費と同等のものと判断されています。
トラブルになってしまった場合は専門機関に相談を
老人ホームとトラブルになり、当事者同士の話し合いでは解決できない場合は、下記のような専門機関に相談しましょう。
- 施設がある地域の役所の相談窓口
- 消費者ホットライン
- 各都道府県の国保連(国民健康保険団体連合会)
- 法テラスなどの法律相談窓口
公的な相談機関だけでなく、民間の弁護士や司法書士が地域包括支援センターなどで月に1~2回の無料相談会を実施している地域もあります。有効に活用していきましょう。
どれくらい返ってくるかは老人ホームによって異なるので、入居契約をする前には必ず確認するようにしましょう。