冬の到来とともに、私たちの健康は毎年のように感染症の試練に直面することになります。インフルエンザ、RSウイルス、そして2020年新たに加わった新型コロナウイルス 。これら3つの異なる脅威が私たちの日常に忍び寄ってきます。

特に免疫システムが十分に発達していない小さなお子さんや免疫システムになんらかの問題を抱えることが多い高齢者にとっては、脅威になりやすいものです。考え始めると心配は尽きないかもしれませんが、幸いなことに、現代医学はこれらの脅威に対抗するための強力な武器を持っています。それがワクチンです。今回の記事では、これら3つの病原体の予防において重要なワクチンと、それらがいかに私たちの健康を守ってくれるのかについて、詳しく解説していきたいと思います。

この冬のコロナとワクチンの特徴は?

COVID-19パンデミックは、すでに終わったものという認識の方も多くなっているかもしれません。しかし、絶え間なく出現する新たな変異ウイルスの存在により、依然として全世界の人の健康に影響を及ぼし続けています。今主要なウイルスとなっているのは、EG.5とHV.1と呼ばれる変異ウイルスで、いずれもオミクロンXBBの子孫にあたるウイルスです。こうした変異ウイルスに対応するため、アップデートされたコロナワクチンが開発され、今秋からその使用が開始されています。

繰り返しになりますが、ウイルスは絶えず変異を繰り返し、人の免疫を潜り抜けやすい“変異”を獲得したものが存続しています。私たち人の免疫側も、ウイルスに対抗するためにアップデートし続ける必要があるのです。

最近行われた研究1で、現在使用されているアップデートワクチンについて評価が行われています。この研究では、XBB.1.5を含む様々な変異ウイルスに対して、ワクチンによる抗体のできかたがどの程度かを検証しています。結果として、ワクチンは現在流行中の複数の変異ウイルスに対して、強力に抗体産生を導くことが明らかとなっています。この「複数」には、先にご紹介したEG.5やHV.1も含まれていて、少なくとも現在の感染流行に対処するのに適切なブースターワクチンであることが分かります。

このワクチンは、以前使用されていた2価のワクチンと比較しても、変異ウイルスに対してより多くの抗体を導くことが明らかになっています2。逆に言えば、以前用いられていたブースター接種の効果は、現在の変異ウイルスへの対応という意味では不十分になってきている可能性があり、新たなワクチンでこそより効果的に対応できる可能性が高いということです。

このワクチンは、生後6ヶ月以上のすべての方に推奨されるものですが、特に、高齢者や基礎疾患を持つ方にとっては、重症化リスクを低減するために、接種が強く推奨されます。

今後もCOVID-19に対する予防策として、定期的に最新のワクチン接種を受けることは変わらず大切です。例えるなら、スマートフォンのアプリをアップデートし続ける必要があるのと同じことです。アップデートを怠ると、その変化についていけなくなってしまいます。

もはや冬の定番?インフルエンザは?

インフルエンザは、毎年この時期に感染流行するので、もはや特に意識すらされない方も多いかもしれません。しかし、特に高齢者や妊婦さん、お子さんにとっては、重症化するリスクがあり、予防が重要な感染症であり続けています。特に、今年は日本でも大きな感染流行が起こるのではないかと予想されています。

インフルエンザワクチンの接種にも様々な意義があります。「感染を防ぐ」という意味では、(年によっても変わりますが)感染する確率を5割前後減らすことができると報告されています3,45割しかないのかと思われるかもしれませんが、期待できる効果はそれだけではありません。ワクチンを接種しておくことで、ワクチンで訓練された体が迅速に反応し、ウイルスを早く駆除するのを助けてくれます。このため、仮に感染してしまっても、症状が軽くなったり、治るまでの期間が短くなったりするような効果を見込むことができます。

また、高齢者にとっては、重症化やインフルエンザ後の肺炎を防ぎ、入院を防ぐような効果も報告されています5,6。「自分は若いから関係ない」と思われるかもしれませんが、ワクチンを接種し自らの体を守ることで、同居の高齢のご家族や自分のコミュニティーの高齢者を守ることにもつながります。ワクチン接種は自分のためだけではなく、自分を取り巻く家族や友人を守るためでもあるという意識を持っておきたいものです。

13歳以上の方には、1回接種が原則とされており、健康な成人や基礎疾患のある方を対象にした研究では、1回接種で、2回接種と同等の抗体価の上昇が得られることが示されています7

定期接種の対象者には、65歳以上の方、60~64歳で特定の慢性疾患を有する方などが含まれますが、生後6ヶ月以上のすべての方に推奨されるワクチンです。また、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンは同日に接種することが可能です。

ワクチンの効果がどのぐらい持続するかと言えば、報告によって少しばらつきがありますが、ほぼ全ての研究から共通して言えることは、免疫のできにくい高齢者であっても少なくとも4ヵ月は高い効果が持続するだろうということです8

また、完全に効果がなくなるまでには1年以上かかるとの報告もあり、少しずつ効果は落ちていくものと予想されますが、流行期前の接種により流行期の間はほとんどカバーできる可能性が高いと考えられています9

副反応の主なものとしては、注射部位の赤みや痛み、微熱といったものです。微熱や痛みが辛い場合には、解熱剤や鎮痛薬を使って対応することが可能です。重大な副反応としては、アレルギー反応が挙げられます。これは、100万人に1.5人程度の割合で生じる可能性があると報告されています10。また、ギランバレー症候群と呼ばれる神経の病気を発症する確率がわずかに増えるのではと示唆する報告もあります。これもやはり100万人に1.5人程度の割合ではないかと言われています11

これらはもちろん無視のできない副反応であるものの、とてもまれな事象であり、予防接種を回避することによるリスクと比較すると圧倒的に後者の方が大きいことから、副反応のリスクを認識しつつも、その接種が推奨されています。

毎年インフルエンザワクチン接種を受けるのは、毎年防災訓練をするのと同じような意味合いがあります。普段から訓練をしていないとどうやってどこに避難していいのかわからず、災害に巻き込まれてしまうリスクが高くなってしまいます。しかし、ワクチンで防災訓練ができていれば、完璧ではないかもしれませんが、いざ災害(ウイルス)がやってきても、すぐにテキパキと避難できるようになるのです。

今秋新たに登場したRSウイルスワクチンとは

RSウイルスは、インフルエンザやコロナに比べると、「あまり耳にしない」ウイルスかもしれません。それもそのはず、元々は主に子どもに風邪症状や肺炎を起こすウイルスとして認知されてきました。しかし、実際には大人にも健康リスクをもたらすウイルスであることが最近になって認識されつつあります。特に、高齢者においては、重症の肺炎を引き起こす可能性もあり、その予防策としてワクチン接種の重要性が高まっています。

最近の研究12で、60歳以上の成人を対象としてRSウイルスワクチンの効果が評価されました。ランダムに分けられた2つのグループの人に、それぞれ1回、タンパク質ベースのRSウイルスワクチン、または偽もののワクチン(プラセボ)がRSウイルス流行期前に投与され、ワクチンの効果が評価されました。

結果として、約2万5000人の参加者が接種を受け、約6.7か月の期間を経て、ワクチンの肺炎や気管支炎に対する効果は82.6%と算出されました。また、重症感染症に対するワクチンの効果は94.1%でした。

副反応に関しては、ワクチン群でプラセボよりも有害事象が多く見られましたが、主に多くみられたのは注射部位の腫れなどといった局所反応で、発熱を含む全身性の反応はプラセボと同等でした(27% vs 26%)。また、大部分は一時的なもので軽症から中等症にとどまりました。重度の有害事象は、プラセボと同等でした。

これらの結果から、RSウイルスワクチンの一回接種が、60歳以上の高齢者において安全で有効であることが示唆されたと言えます。こうした背景から、現在このワクチンは60歳以上の方に接種が推奨されています。

また、最近になり、RSウイルスワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種に関する研究13も報告されています。結果として、ワクチンの有効性および副反応の出現頻度は、別々に接種した時と比べて変わらないとする結果が得られています。

予防接種は、車に乗った時のシートベルト装着のようなものです。「感染症には滅多にかからないから接種しなくて大丈夫」というのは、いわば「事故に遭わないからシートベルトはしなくて大丈夫」と言っているのと同じです。乗車に際してシートベルトを装着するのは、事故に遭う確率が仮に低くても、万が一事故に遭ってしまった時のため、大きなけがを未然に防ぐためにやっているのではないでしょうか。これが予防の考え方です。

健康が当たり前のようになると、時にその重要性が見えにくくなるものですが、当たり前のように存在する家族へも時々感謝の気持ちを伝えるのが大切なように、自分の健康は必ずしも「当たり前」ではないと、時々予防のメンテナンスに心配りをすることも大切です。

参考文献

1. Patel N, Trost JF, Guebre-Xabier M, et al. XBB.1.5 spike protein COVID-19 vaccine induces broadly neutralizing and cellular immune responses against EG.5.1 and emerging XBB variants. Scientific Reports 2023 13:1. 2023;13(1):1-11. doi:10.1038/s41598-023-46025-y

2. Chalkias S, McGhee N, Whatley JL, et al. Safety and Immunogenicity of XBB.1.5-Containing mRNA Vaccines. medRxiv. Published online September 7, 2023:2023.08.22.23293434. doi:10.1101/2023.08.22.23293434

3. Doyle JD, Chung JR, Kim SS, et al. Interim Estimates of 2018–19 Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness — United States, February 2019. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. Published online 2019. doi:10.15585/mmwr.mm6806a2

4. Dawood FS, Chung JR, Kim SS, et al. Interim Estimates of 2019–20 Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness — United States, February 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. Published online 2020. doi:10.15585/mmwr.mm6907a1

5. Havers F, Sokolow L, Shay DK, et al. Case-Control Study of Vaccine Effectiveness in Preventing Laboratory-Confirmed Influenza Hospitalizations in Older Adults, United States, 2010-2011. Clinical Infectious Diseases. Published online 2016. doi:10.1093/cid/ciw512

6. Liu WC, Lin CS, Yeh CC, et al. Effect of influenza vaccination against postoperative pneumonia and mortality for geriatric patients receiving major surgery: A nationwide matched study. Journal of Infectious Diseases. Published online 2018. doi:10.1093/infdis/jix616

7. 令和5年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策について|厚生労働省. Accessed December 8, 2023. https://www.mhlw.go.jp/stf/index2023.html#

8. Skowronski DM, Tweed SA, De Serres G. Rapid decline of influenza vaccine-induced antibody in the elderly: Is it real, or is it relevant? Journal of Infectious Diseases. Published online 2008. doi:10.1086/524146

9. Petrie JG, Ohmit SE, Johnson E, Truscon R, Monto AS. Persistence of antibodies to influenza hemagglutinin and neuraminidase following one or two years of influenza vaccination. Journal of Infectious Diseases. Published online 2015. doi:10.1093/infdis/jiv313

10. McNeil MM, Weintraub ES, Duffy J, et al. Risk of anaphylaxis after vaccination in children and adults. Journal of Allergy and Clinical Immunology. Published online 2016. doi:10.1016/j.jaci.2015.07.048

11. Salmon DA, Proschan M, Forshee R, et al. Association between Guillain-Barré syndrome and influenza A (H1N1) 2009 monovalent inactivated vaccines in the USA: A meta-analysis. The Lancet. Published online 2013. doi:10.1016/S0140-6736(12)62189-8

12. Papi A, Ison MG, Langley JM, et al. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. New England Journal of Medicine. 2023;388(7):595-608. doi:10.1056/NEJMOA2209604/SUPPL_FILE/NEJMOA2209604_DATA-SHARING.PDF

13. Athan E, Baber J, Quan K, et al. Safety and Immunogenicity of Bivalent RSVpreF Vaccine Coadministered With Seasonal Inactivated Influenza Vaccine in Older Adults. Clinical Infectious Diseases. Published online November 22, 2023. doi:10.1093/CID/CIAD707