そもそも帯状疱疹とは?
皆さんは『帯状疱疹』という病気をご存知でしょうか?
病名を見聞きしたことがあるという方は少なくないでしょう。
「帯状疱疹」は、子どもの頃に経験する「水ぼうそう」と同じウイルスで起こる感染症です。
日本人の成人は9割以上が子どもの頃にこの水ぼうそうを経験しています1が、実はこの水ぼうそうのウイルス、あなたが死ぬまでずっと体の中に住み続けているのです。
住む場所は、あなたの神経
ウイルスは神経に住んでいます。
住んでいるだけでは特に害を出すことはないのであまり心配はいりません。
ところが、なんらかのきっかけでそのウイルスが神経に沿って顔を出してくることがあります。
疲労やストレスなどは、その「きっかけ」になりうると考えられています。
「これをやったら発症する」という確実なものがあるわけではありませんが、パンデミック中にも、コロナに感染した後やワクチン接種の後に帯状疱疹を発症した、という報告が飛び交っていました。
また、過去には大きな怪我をした後に帯状疱疹を発症するリスクが高いことも報告されています2。
やはり、ストレスがかかるような出来事があると、それに応じて「帯状疱疹」が出てくることがあるようです。
50代から発症リスクが急増
また、年齢は最も強力な危険因子であるとも報告されています。50歳代に発症リスクが急激に増加し、全体の20%は50歳代に、40%は60歳代以降に起こると報告されています3。年齢を重ねるとともに注意した方がよい病気とも言えます。
このようなことがリスクとなりウイルスが再び活発になると、それが水ぼうそうとは形を変えて帯状疱疹としてあらわれます。
先にも述べたとおり、日本人の成人の9割以上の方が水ぼうそうを経験しているので、9割以上の方に発症リスクがあると言えます。
また、こちら米国では、3人に1人は人生で一度はこの帯状疱疹を発症すると報告されています4。そう考えると、比較的、身近な病気だと言えるでしょう。
身体の左右どちらかに発症
「帯状疱疹」を発症すると、神経が炎症を起こし、ピリピリとした痛みが出るのですが、それに伴って皮膚にも炎症が起こり、水ぶくれをともなった赤い発疹が、典型的には体の左右のどちらかに、帯状にあらわれます。
その際、痛みだけが先行して出て、発疹が目立たないというケースもあるのですが、この場合には診断は少し難しくなります。
皮膚の発疹自体は治療を進めるうちに治っていきますが、帯状疱疹を発症した人の2割程度が、強い炎症の結果として神経に損傷を起こし、3ヵ月以上続く神経痛に悩まされると言われています5。
これは「帯状疱疹後神経痛(PHN)」と呼ばれる、非常に厄介な合併症です。痛みが比較的強いため、仕事や日常生活、集中力に影響を及ぼすこともあります。PHNも年齢が大きな危険因子であることも知られており、50歳代以降では、50歳未満と比較して、発症リスクが27倍に増加するとする報告もあります6。
こうした病態は、ほとんどの場合、命を奪うようなものとはなりませんが、痛みは生活の質を下げ、生産能力を落とすことから経済的な負担も増える可能性があります。そう考えると、特に50歳を超えたら、帯状疱疹、PHNの両者が予防できるなら予防したいと考えられるのではないでしょうか。
帯状疱疹の唯一の予防法
そして、この帯状疱疹、PHNには、実際のところ強力な予防法があるのです。その唯一の、しかし強力な予防法こそが予防接種です。
特に、最近になり使用されている「シングリックス®︎」という不活化ワクチンは、非常に有効性が高く、帯状疱疹の発症予防効果は90%以上と報告されています。50歳以上を対象にした試験では、97%という報告もあり、ほぼパーフェクトに近い有効性を発揮するのです7。
2回の接種で高い効果
ワクチンは2回接種が必要ですが、2回接種した後は、少なくとも7年経過しても80%を超える有効性が報告されています8。
また、このワクチンは、仮に「帯状疱疹」を発症したとしても、先に説明した「帯状疱疹後神経痛(PHN)」を予防する効果も非常に高く、85%を超えると言われています7。
これだけ有効性が高く、しかも長期に渡り有効性が続くので、多くの方に推奨される予防接種なのです。
基本的には、先にご説明した通り、50歳以上でそのリスクが急激に増加するため、特別な事情がない限り、一般に50歳以上の方に接種が推奨されています。また、過去に帯状疱疹を経験した人でも、繰り返し発症することが十分考えられるため、未発症の方と同様にその接種が推奨されています。
では逆に、この予防接種の問題点や課題は何かと言えば、一番は値段が高いことかもしれません。こちらアメリカでも、2回接種をすると、保険がカバーをしてくれない場合には約400ドルの請求が来てしまいます。
ただし、アメリカの場合は65歳以上の方は無料になりましたし、日本でも自治体によって助成金が出ます。
ぜひ、お住いの自治体のホームページで確認してみると良いでしょう。なお、日本国内での接種費用は22,000円程度になっているようです。
保険がきかない場合には、値段の話をよく患者さんからご相談いただくのですが、3分の1の確率で帯状疱疹を発症し、2週間ほど仕事を休まざるを得なくなったり、その後も長い期間、神経痛に悩まされる可能性があるとしたら、実は安い買い物、という考え方もできるのではないかとお話ししています。
気になる副反応は?
また、副反応7,9についても理解しておく必要があるでしょう。
帯状疱疹ワクチンの接種後に起こり得る副反応には、接種部位の反応と全身的な反応があります。
接種部位の反応として、最も一般的なものは接種部位の痛みで、これは全体の78%にまで見られると報告されています。ただし、日常生活を妨げるような重い反応が起きたのは接種者の9.4%とも報告されています。
全身的な反応としては、筋肉痛(44.7%)、倦怠感(44.5%)、頭痛(37.7%)、寒気(26.8%)、発熱(20.5%)、胃腸症状(17.3%)などが最も一般的で、これらの反応により日常生活が妨げられた人は、ワクチン接種者の10.8%と報告されています。
ただし、副反応は、通常1〜3日で消え、その頻度や重症度は2回目のワクチン接種を受けられないほどではありませんでした。
こうしたことから、副反応については、6人に1人くらいの割合で日常生活を妨げられるような反応が起こる可能性がある、しかしながら、それらの反応は通常1〜3日で解消すると理解しておくと良いのではないでしょうか。
また、先にも述べた通り、実際に帯状疱疹を発症した時のことを考えれば、数ヶ月に渡り日常生活に支障をきたすような痛みを経験しなければならない可能性もありますので、それと天秤にかければ、多くの人にとっては、十分取る価値のあるリスクと考えられるかもしれません。
まとめ
今回は帯状疱疹の予防接種についてまとめてみました。
肺炎球菌の予防接種やインフルエンザの予防接種に比べて、十分認知が広がっていないのが現状ですが、今回の記事を通して改めて見直すきっかけとしていただければ嬉しいです。
参考文献
1. dj2982.html. Accessed July 20, 2023. http://idsc.nih.go.jp/iasr/25/298/dj2982.html
2. Zhang JX, Joesoef RM, Bialek S, Wang C, Harpaz R. Association of physical trauma with risk of herpes zoster among Medicare beneficiaries in the United States. J Infect Dis. 2013;207(6):1007-1011. doi:10.1093/INFDIS/JIS937
3. Schmader K. Herpes zoster in older adults. Clin Infect Dis. 2001;32(10):1481-1486. doi:10.1086/320169
4. Shingles Surveillance, Trends, Deaths | CDC. Accessed July 20, 2023. https://www.cdc.gov/shingles/surveillance.html
5. Drolet M, Brisson M, Levin MJ, et al. A prospective study of the herpes zoster severity of illness. Clin J Pain. 2010;26(8):656-666. doi:10.1097/AJP.0B013E3181EEF686
6. Choo PW, Galil K, Donahue JG, Walker AM, Spiegelman D, Platt R. Risk Factors for Postherpetic Neuralgia. Arch Intern Med. 1997;157(11):1217-1224. doi:10.1001/ARCHINTE.1997.00440320117011
7. Cunningham AL, Lal H, Kovac M, et al. Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older. N Engl J Med. 2016;375(11):1019-1032. doi:10.1056/NEJMOA1603800
8. Boutry C, Hastie A, Diez-Domingo J, et al. The Adjuvanted Recombinant Zoster Vaccine Confers Long-Term Protection Against Herpes Zoster: Interim Results of an Extension Study of the Pivotal Phase 3 Clinical Trials ZOE-50 and ZOE-70. Clin Infect Dis. 2022;74(8):1459-1467. doi:10.1093/CID/CIAB629
9. Lal H, Cunningham AL, Godeaux O, et al. Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults. N Engl J Med. 2015;372(22):2087-2096. doi:10.1056/NEJMOA1501184